小倉正男の「続・M&A資本主義」

世界規模のM&Aに日本企業はどうやって立ち向かうのか

「アメリカ衰退論」に見る思考停止~横並び論を疑ってみる

みんなで渡れば恐くない  

アメリカが、断トツの経済大国から、横並びの大国になった。ブッシュ大統領の失政もあり、アメリカは衰退の道を歩き始めている。ドルの暴落、ユーロの台頭、それに中国、インドなどの経済大国化が、アメリカの衰退の証である――。

いま、学者、エコノミスト、政治家、経営者、そして巷の人々までそうした論を唱えている。日本における情報の伝播力は凄まじいもので、みな、横並びに同じ論を話している。  みんなで渡れば恐くない。しかし、みんなで渡るときは、誰も考えていないのだから、間違うことも多い。みんなが同じ事を言い出したら、いわば思考停止――。そういうときは、むしろ疑って考えるべきである。

アメリカ企業のこの4月~6月の四半期決算では、金融関連が損益面で厳しい状態だが、それ以外の一般のビジネス分野は各社別に浮き沈みはあるが、悪い状況ではない。

マイクロソフト、ヤフーは低下しているが、グーグルは伸びている。アップル、インテルなども好調である。ここがアメリカの強みである。ビジネスが横並びではない。アメリカ経済の懐の深さである。

グーグル、マイクロソフト、ヤフーは、ビジネスモデルが同じではない。違ったビジネスモデルで、覇権を競い合っている。したがって、競争の結果として新陳代謝があり、浮き沈みや盛衰がある。負けた企業は、勝った企業にM&Aで呑み込まれるか、市場から退場を迫られる。だから、本気で競争している。この経済システムがアメリカの強みである。つまり、新陳代謝が図られ、共倒れリスクがない。思慮のない大統領が出て、失政をしても復元作用を持っている。

横並びのビジネスモデル 

対照的に、日本企業の場合は、そのビジネスモデルの多くが横並びである。銀行などが典型だが規制に飼いならされ、同じビジネスモデルに甘んじている。それは銀行以外でもほとんど同じである。本質的な競争がなく、考えないでよいのだから、楽は楽だがグローバル競争では置いていかれるばかりになる。

よいときも横並び、悪くなるときも横並び、――共倒れの経済システムとなっている。

日本企業の「競争」とは、「名ばかり管理職」をつくり長時間労働をさせて残業料を払わないとか、TQCは労働者の自発的行動だから賃金、残業料は払わないとか、有給休暇は制度があるが使わせないとか――、単純なというか、みみっちい「搾取」が基本となっている。

これも国際競争力、グローバル競争力なのだが、きわめて「後進国」であることを自覚しなければならないような話である。これが悲しいことに、日本企業の「競争」の実体である。

自己弁護の公的資金注入論 

日本の政治家、特に自民党の政治家は右も左も、アメリカのサブプライムローン恐慌問題に対して、公的資金を投入しろと、これも同じ主張をしている。

自民党の政治家、とくに派閥の長クラスは、財務大臣や官房長官などをやってきており、この15年以上を「不動産バブル」処理という「第二の敗戦」処理に明け暮れてきた。膨大な税金を銀行などに注入し、しかも、銀行には金利を支払わなくてよいという「究極の業者保護政策」を採ってきた。

アメリカですら、もっと言えばあのブッシュ大統領ですら、「日本の不動産バブル処理の轍を踏むな」と反面教師にしているのに、自民党の大半は、日本がやったように国民を犠牲にして業者を保護しろ、と主張している。これは、日本のバブル処理を正当化したいという「集団行動」にほかならないのではないか。自分がやったことを、正しいことだった、あれしか手はなかったと、ごまかしたいのである。本当は、そんな政治家は引退すべきだが、自ら辞めた政治家は一人もいない。

“一億層懺悔”で、すべてをアイマイにする。何回、無責任を繰り返せばよいのか。これでは、日本の資本主義は進化せず、経済の目標である「豊かさ」からは遠のくばかりである。

サブプライムローン破綻とアメリカ資本主義~恐慌が資本主義を強化・再生する

 恐慌の決まりごとで最も重要なのは、恐慌が資本主義を強化・再生することである。

マルクス経済学では、恐慌が資本主義を葬るというのが主流の見解である。したがって、スターリン時代などは、経済学者を動員して、資本主義と恐慌の関連を徹底して研究させた歴史がある。

ところが、研究すればするほど、資本主義は恐慌を起しながら発展していく現実を発見することになる。これらの実証的な仕事をしたのが、ツガン・バラノフスキーなどのマルクス経済学異端派の学者にほかならない。これは革命理論と科学の分岐点のようなものかもしれない。

革命理論としてのマルクス経済学では、恐慌が資本主義を崩壊させ、社会主義に移行せざるをえないという「必然論」を間違いのない仮説として打ち出してきた。放っておいても、資本主義は恐慌で崩壊するというわけである。この学説に依拠すれば、1930年代の世界大恐慌で、アメリカを筆頭に世界の資本主義国はすべて社会主義になっていくという「必然論」になる。

ところが、資本主義の恐慌を実証する、あるいは「臨床」するマルクス経済学では、恐慌を経て資本主義は強化・再生されていることが発見されていった。これがマルクス経済学異端派の見解になる。たぶんに志と違った学問結果になった面があったかもしれないが、現実は否定できないという立場である。

革命理論からいえば、実証研究、つまり現実が間違っている。だから、異端派として追放するということになる。実証研究したほうからいえば、現実からみれば理論が教条として硬直しており間違っている、ということになる。

問題は「サブプライム恐慌」の後に、アメリカの資本主義の強化・再生があるのかどうかである。

いま、アメリカの資本主義ははっきりと没落の道をたどっている、という経済学者、エコノミストの見方が大半である。しかも有力な方々がそうした見方をとっている。メディアもアメリカ資本主義の一極支配の終焉を一面で論じ始めている。世界資本主義は多極化を歩み始めている、と――。つまり、アメリカの資本主義は混迷期に向っているという論調である。アメリカ資本主義の強化・再生など誰ひとり論じようとすらしていない。

あるいは、原油価格は中国、インドが先進国に仲間入りして石油をガブ飲みしており、いまの高騰価格が当然の価格であり、これがアメリカを筆頭に世界をスタグフレーションに陥れ、二度目の「世界大恐慌」に陥れるという説も出ている――。株式市場もアメリカを先頭に落下する。つまりアメリカの資本主義どころか、世界の資本主義もともに没落・混迷・不安が避けられない。そうした「悲観論」が日々語られている。

次回は、このあたりに焦点を当ててみるしかないか。

プロフィール

小倉正男(おぐら・まさお) 評論家 早稲田大学卒業後、71年東洋経済新報社入社、記者・編集者、企業情報部長、金融証券部長、編集局次長、名古屋支社長・中部経済倶楽部専務理事などを歴任。07年共同PR名古屋支社長。著書に「M&A資本主義」「倒れない経営」「トヨタとイトーヨーカ堂」「日本の時短革命」「第四次産業の衝撃」など多数。

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