小倉正男の「続・M&A資本主義」

世界規模のM&Aに日本企業はどうやって立ち向かうのか

サブプライムローン恐慌のもたらすものー2

シティ、メリルなどが軒並み巨額損失を抱える
 
ところが、「サブプライムローン恐慌」では、そうなっていない。住宅ローン会社は、サブプライムローン債権を小口証券化し、その証券を投資銀行、証券会社、ヘッジファンドに売却している。その証券は、リスクが大きいだけに高利回り金融商品であり、アメリカ国債よりも利回りがよかった。住宅バブルが続いているときには人気の商品にほかならなかったわけである。

シティグループ3・2兆円、メリルリンチ2・6兆円、モルガン・スタンレー1兆円、そしてヨーロッパのUBS(スイス)1・6兆円という巨大なサブプライムローン関連損失が発表されている。いずれも世界の巨大金融コングロマリット企業だが、目も当てられない状態になっている。しかも損失額は時を追って増加している。

あの目端が利くゴールドマン・サックスがほぼ唯一の「勝ち組企業」と言われていたが、もとより無傷ではありえない。世界の巨大金融コングロマリットの多くが、「負け組企業」に転落している。羽振りがよく、M&A(企業合併買収)などで暴れまわっていたヘッジファンドも大きな損失を蒙っており、これらも投資銀行など金融コングロマリットから資金を借りており、動きが止まるどころか株式などの換金売りに走っているとみられている。

いま揺らいでいるのは、住宅ローンを売った住宅ローン会社ではなく、むしろ、その住宅ローンが証券化された金融商品を買った投資銀行、証券会社、ヘッジファンドなどの花形の投資関連金融企業である。これらが「サブプライムローン恐慌」の巨大な損失の「主役」ともいえる当事者になっている。これらの花形の金融コングロマリットは、巨大な損失を出し、資本不足に陥っている。このままでは、顧客であるおカネ持ち層が取り付けというか、大量に逃げ出しかねない。
 
「負け組企業」の素早い資本注入
 
シティグループ、メリルリンチ、モルガン・スタンレー、UBSなどの「負け組み企業」の金融コングロマリットがいま軒並みに資本注入を仰いでいるのが、「政府系ファンド」である。

「政府系ファンド」とは、UAEアブダビ投資庁、クウェート投資庁、サウジアラビア通貨庁など原油、ガスなど天然資源で稼いだ「アラブダラー系」が、その代表にほかならない。ロシアなども出てきているが、ロシアも原油、ガスで復活してきた組であり、ブッシュ大統領のイラク戦争による原油の天井知らずの高騰でおカネ(外貨収入)ができて、資本注入を行う側に廻っている。

非天然資源系では、シンガポール政府投資公社、中国投資有限責任公司、韓国投資公社などが代表だ。金融や貿易・輸出で稼いだおカネ(外貨収入)を運用しているわけだが、これらも資本注入する側に廻っている。

これらの「政府系ファンド」は、300兆円を上回る資産規模を持っているとされている。この「政府系ファンド」が、アメリカ、ヨーロッパの巨大金融コングロマリットの「負け組企業」のとりあえずの白馬の騎士のようなライフセイバー・救世主となっている。

シティグループ、メリルリンチ、モルガン・スタンレー、UBSなどの「負け組企業」の資本注入はとてつもなく速かった。アラブ、アジアなどのマネー導入という面子などはすっぱり捨て、「政府系ファンド」から資本注入を仰いだ。それと同時にこれまでの経営者の責任を問い、更迭している。この点、アメリカの資本主義は荒々しいまでの市場原理、株主を主体とするコーポレート・ガバナンスが貫かれている印象がある。
 
恐慌の後に再編成・M&Aが来る
 
恐慌の決まりごとの二つめは、「恐慌の後に再編成が来る」ということだ。恐慌が来れば、一時的に経済が縮小する。市場は小さくなることが避けられない。いまの経済は世界規模で入り組んでおり、「サブプライムローン恐慌」は、世界経済を一時的に縮小させる。

となれば、「勝ち組企業」が「負け組企業」をM&Aで呑み込むという形の業界再編成が世界規模で起こることになる。金融でいえば、相対的に傷が小さいゴールドマン・サックスが市場を席巻する格好で再編成を起こすことになると想定される。

シティグループ、メリルリンチ、モルガン・スタンレー、UBSなどのれっきとした「負け組企業」は戦々恐々である。それだけに、M&Aで呑み込まれる側に廻らないように、なりふりかまわず素早く資本注入を進めている。

日本でも、不動産バブル崩壊を経て「金融危機」と呼ばれる恐慌状態になり、あまたの銀行が淘汰され、すったもんだの末に3つのメガバンクに集約された。つい何年か前の出来事である。

それと同様のことが世界で行われる。それもアメリカ、ヨーロッパの世界の巨大金融コングロマリット企業の間で熾烈を極めた生存競争として行われる。しかも、日本の再編成などにはまったく見られない猛スピードの素早さで促進される。それがこれから起きる現象になる。

すでに再編成の動きは、金融業界だけではなく、表面化している。例えば、マイクロソフトによるヤフーの買収提案である。マイクロソフトは、ヤフーに対して446億ドル(4・8兆円)という空前の大型M&Aを提案している。それにより、グーグルに対抗しようという提案であった。

ヤフーは、その提案に、「著しい過小評価である」として、ヤフーが欲しいならもっとおカネを積み上げろ、というスタンスをとった。こうした動きも、ネット広告をめぐる市場の一時的な縮小を見込み、生き残り戦争に入っていることを示すものだ。グーグル、マイクロソフト、ヤフーのネット業界の巨人企業も生き残りを賭けた再編成のイニシャティブ争いに突入している。

アメリカの資本主義では、巨大金融コングロマリット企業への資本注入とほとんど間を置かずにM&Aによる業界再編成が推進されている。恐慌の2つめの決まりごと、「恐慌の後に再編成が来る」、も動き始めている。これも苛烈を極めるアメリカ資本主義の生き残り競争という背景があるだけに、いやおうなく猛烈なスピードで展開されている。

サブプライムローン恐慌のもたらすものー1

恐慌には、いくつかの決まりごとがある。ひとつは、「あらゆる恐慌は、金融恐慌を伴う」というものである。

中世までの金融とは、高利貸し程度のものであり、貸し出すおカネの量も小さく、貸し出される地域も狭い範囲のものでしかなかった。

しかし、最初の資本主義国であるオランダ、そしてイギリスから始まる「現代資本主義」では、銀行という金融機関が介在することになる。銀行などの金融機関の信用創造は、実物経済を支え、補強するものとして始まった。

「現代資本主義」=「産業革命」とは、製造業の革命といわれているが、銀行、流通、物流などサービス産業の革命が同時並行で進行することで成立する。そして、いまの世界では金融という非実物経済が、実物経済を三倍も上回る規模となり、非実物経済の動向が、実物経済に影響を与えるまでになっている。

あらゆる恐慌は金融恐慌を伴う

バブル(好況)、そしてバブル崩壊(恐慌)は、オランダ、ベルギーのネーデルラントから始まった。恐慌は、現代資本主義に付きまとうものということになる。オランダといえば、厳格なプロテスタント(カルヴァン主義)の国であり、勤勉・貯蓄・節約を旨とする禁欲的な人々が、現代の幕開けで最初に貪欲に走ったところも面白い。

最初のバブルは、17世紀に起こったオランダのチューリップ・バブル(チューリップマニア)である。当時、世界最大の債権国だったオランダはカネ余りとなり、チューリップへの投機現象を起した。金持ちから、あるいはそうでもない人々までチューリップの球根を買い集め、チューリップは高値を更新し続けた。しかし、ある時期(1637年)に値段はまったくつかなくなった。

チューリップを買った連中は、大なり小なり銀行からおカネを借りて投機に走った。銀行はおカネを貸して金利をとる商売だから、チューリップの高値更新を担保に貸しまくった。

 チューリップを買った人々は、不良債権をつかんだわけだが、銀行にカネを返せない。最終的に、銀行は、不良債権の塊となった。おカネの代わりに無価値となったチューリップを差し出されても銀行の資本不足は解消しない。結果、預金者による銀行への取り付け騒ぎとなる。

あらゆる恐慌が金融恐慌を伴うのは、ついちょっと最近の日本の「不動産バブル崩壊」でもお馴染みとなった現象にほかならない。日本の法人(企業)を主体とする「不動産バブル崩壊」でも、金持ちたちは、銀行から預金を下ろしてタンス預金に切り替えるという行動を起こした。銀行の破産=取り付けを懸念しての動きである。

「サブプライムローン」――恐慌とは何か

今回のアメリカの「サブプライムローン恐慌」においても、バブルとバブル崩壊の構造は、初期資本主義時代のチューリップ恐慌と基本的に同じである。

違うのは証券化ということだ。これが構造を見づらくし、バブルとバブル崩壊の規模を究極まで拡大している。

サブプライムローンというのは、比較的に信用力の乏しいお客向けの金利の高い住宅ローンである。最初の二年は、ローンの支払いが楽に設計されているが、その後に金利が上がりローン支払いが厳しいものになっている。購入した住宅の価格が上昇し、担保力が上がれば、優遇された比較的に低金利の「プライムローン」に切り替えできる。

バブルというものは、どのバブルもほとんど同様だが、投資物件が上昇しているときは誰にとってもハッピーである。そうお金持ちでない、貧しい人々でも、豪邸を買えて、その上その住宅価格が上昇すれば、低金利のローンに移行できる。そうなると、自動車やテレビなどの耐久消費財の購入を含め、消費なども活発化することになる。

アメリカは、移民がどんどん増え、それらの人々は世界中から豊かな生活を求めてきているのだから、住宅需要は青天井だ――。それがアメリカの住宅バブルを推進・継続させた理屈である。

もともとは、アメリカは広大な土地があるのだから、日本のような不動産・住宅バブルは起きるわけがない、と言われていた。日本の法人(企業)による1990年代前半の不動産バブル崩壊時、アメリカはそう言って呆れていたものである。

「サブプライムローン恐慌」は、そのアメリカの住宅バブルが破裂したことでもたらされている。バブルの破裂は、多くの人が買い込み、買い手が底をつき、潜在的な売り手を含めて売り手ばかりの市場になったときに起こる。

「サブプライムローン恐慌」がもたらす第一の現象は、住宅ローンを借りたお客が、日本で言うノンバンクの住宅ローン会社にお金を返せないということだ。初期資本主義でいえば、住宅ローン会社におカネの返済がないのだから、住宅ローン会社が倒産するというパターンになる。

プロフィール

小倉正男(おぐら・まさお) 評論家 早稲田大学卒業後、71年東洋経済新報社入社、記者・編集者、企業情報部長、金融証券部長、編集局次長、名古屋支社長・中部経済倶楽部専務理事などを歴任。07年共同PR名古屋支社長。著書に「M&A資本主義」「倒れない経営」「トヨタとイトーヨーカ堂」「日本の時短革命」「第四次産業の衝撃」など多数。

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