泉谷裕の「経営を誘導する管理制度」

「情報化マトリックス経営」を実現する管理会計の発想法

高付加価値率企業における収益管理部門の設定と仕組みー2

部門損益と標準原価

一般的にどの企業も通常、部門別にコストを把握しており、管理もしている。この場合、前工程から後工程へは、標準原価で送られる場合が多い。しかし、ここで言う部門損益は、部門利益の追求であるので、利益も含めた振替価格を用いる。理由は評価を使用資本に対するパフォーマンスで見るためであり、利益概念がなければ、使用資本利益率が算定されないので、あらかじめ振り替え価格を標準原価に標準利益を加えたものにしておく。

さらに一般の標準原価ではなく、ここで言う標準原価に、標準に使用する機械装置、たな卸し資産などのすべての資産に対する社内金利を算入する。また、部門利益も全ての使用資産に対する社内金利をコストとして認識させる。こうした仕組みを導入することで、標準の資産と実績の使用資産額が変われば、損益に反映してくる(社内金利は株主期待利益を考慮した金利で後述する)。

すなわち、単に損益の管理だけでなく、使用資本の効率を求める仕組みと、使用資産利益率の重要性も認識させる仕組みとして、スターン・スチュワートの提唱するEVAの考えを管理会計に導入することになる。

収益管理体制を製品別・工程別にマトリックスにして管理する問題点

管理を工程別(場所別)と製品別に二重にするマトリックス化は、責任体制の不明確さによる権限指示系統の混乱や、管理の細分化による部門間の軋礫の発生と重複管理による管理費用の増大などを招くおそれがある。従って、下記のような方策を徹底させることが重要になる。

1)方針と施策の共有化

製品別縦割り組織は事業部である。事業部長は、担当する製品の予算と日常的な開発、生産、販売など基本的な活動、および企画業務について、自らの製品を生産販売する子会社を含めて、法人の枠をこえて責任を負い、組織を統制する。

一方、工程別横割り組織の責任者は事業所長(工場長)や子会社の責任者であり、事業部の基本方針の下で、日常的な生産、販売活動など場所(会社)経営を行い、事業所の予算の作成・生産能力の確保、コストダウンの達成、予算の利益の確保などの責任を負う。両者の活動は、年初初めに設定する年度方針の中で方針と施策の共有を図る。なお両者の担当領域や業際が問題になる場合は、本社スタッフの指示の下に場所、事業部スタッフが調整する。

2)本社スタッフと事業所・事業部スタッフの位置づけ

事業の拡大、事業所数の増大につれてスタッフが多くなる。分社化も法人単位で管理スタッフは必要である。組織をマトリックス化して、管理を細分化すると、そこにもスタッフが必要になる。放置すると、管理スタッフのコストが重荷になるし、職責も重複してくる。そこで重複を防ぐためにそれぞれの役割分担を明確化しなければならない。

事業部のスタッフは、極力事業所スタッフを兼ね、本社スタッフは専門性を高め、グループ全体の機能組織を統率し、事業所・子会社の機能スタッフを通じて、機能面から全社を指導・統制する三次元の組織とする。これによって、スタッフの効率をはかり意思の統一を行う。以後、これを三次元マトリックスという。

3)部門損益の集計

財務会計のみならず、受注、生産、購買、経費など、すべての会社の行為の数値をトータルに集計しなければならい。財務会計と管理会計のデータベースを共通のものにしないと、その間に差異が生ずるし、集計コストが多くなる。そこで生産、販売の業務遂行の金額、および数量データを有機的に連携・結び付けて、同じデータは全ての目的に使用し、エントリーは一回しか行わない。

一方、伝統的な本支店会計のように、支店の数字を合計して(サマリーして)上位部門に振り替える方式では、ロジックをつくるのが大変であり、また各上位部門では明細がわからなくなる。そこで取引の明細をデータベース化して、そこから各々、会社全体・各部門の管理データを直接作成する。また、それぞれを別々に集計・計算するのではなく、ひとつのハードウェア・ソフトウェアに子会社を含むすべてのデータをランダムに入力し、アウトプットは目的別フォーマットに出力する工夫をする。

プロフィール

泉谷裕(いずみたに・ひろし)村田製作所前代表取締役副社長  神戸大学卒業後、1958年村田製作所入社、取締役経理部長、常務取締役、専務取締役を経て、1995年代表取締役副社長。2003年同社常任顧問。著書の「利益が見えれば会社がわかる」で日経BP図書出版賞を受賞。野村総合研究所、住友ゴム工業社外監査役。日本CFO協会理事。

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