池田佳史の「ビジネス法務最前線」

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無議決権優先株の上場の動き

2008年5月9日の日経新聞によると、ソフトバンクは議決権がない代わりに普通株より配当の多い種類株(無議決権優先株)の発行、上場に向けて定款変更などの準備に入ると正式に発表したということです。また、ゼンリンも同様の発表をしており、その他にも年内に10社程度が無議決権優先株を発行するようです。

無議決権優先株の上場は昨年の2007年9月3日に伊藤園が行っており、今回の上場が行われると第2回目ということでしたが、残念ながら、5月20、21日の新聞報道によればソフトバンクは無議決権優先株の発行、上場を取りやめたということです。しかし、今後も無議決権優先株の発行、上場についての企業の意欲は続いていくと思われますので、今回は無議決権優先株について簡単にまとめてみることにしました。

今年4月25日の日経新聞によると東京証券取引所は7月にも無議決権株の上場についての指針を明らかにするとのことでしたので、今回の各社の動きはこの発表を受けてのことと思われます。

ところで、普通株式以外に種類株式を発行する会社を種類株式発行会社というと会社法で定義されていますが、呼び名は別として、その制度自体は明治32年の商法制定当時からありました。ただ、種類株式の内容を自由に定めることが出来なかった等の制約があり、上場会社、非上場会社を問わず、あまり利用されてきませんでした。

しかし、徐々に種類株式の内容の自由化が進み、会社法では様々なタイプの種類株式を発行できるようになりました(ただし、複数議決権を有する種類株式については特別な考慮が必要であることは、当事務所のホームページで以前に紹介していますhttp://www.eiko.gr.jp/topics/kaisha080101.html参照)。種類株式の内容は定款で決めなければなりません。

また、種類株式は、非上場会社だけでなく、上場会社も発行できました。ただ、上場申請に係る株式は単一銘柄で、かつ、発行済株式数と同数であることが原則でしたので、種類株式の上場は例外的なものでした。例外的に種類株式の上場が認められた例としては、ソニー、さくら銀行(現三井住友銀行)があるようです(ただし、いずれもすでに上場廃止になっています)。

その後、種類株式の上場への関心が高まったことから、冒頭に紹介した伊藤園の無議決権優先株の上場を皮切りに今回の動きになってきたものです。伊藤園の例と同様にソフトバンクも既存の普通株主に対して一定割合の無議決権優先株を無償で発行することにしていました。ただ、伊藤園では無議決権優先株の配当を普通株の3割増しとしているのに対して、ソフトバンクは2倍から5倍に設定することにしていました。

このような既存の株主への利益の還元というだけでなく、無議決権優先株の上場が認められると、会社は、買収防衛を気にすることなく市場から資金を得ることができることになります。また、株式交換や合併等のM&Aを行う場合、完全子会社となる会社や吸収される会社の株主に対して無議決権優先株を割り当てることにより、従来の株主のみによる株主総会を維持しながらM&Aを行うことができることになります。

東京証券取引所は、無議決権優先株式の乱用的な上場を防ぐために、一定の条件や期間を経た場合に議決権を与えるなどの保護策整備を上場の条件とするようです。伊藤園の無議決権優先株については、合併やTOBによる支配株主の変更、上場廃止の場合には無議決権優先株と普通株式と交換することとしています。また、普通株式が無配であっても予め定められた配当をすることとし、それができない場合には将来に配当するべく累積していくことになっています。

なお、伊藤園、ソフトバンクの例はすでに上場している会社が無議決権優先株を上場する例ですが、東京証券取引所は非上場会社が無議決権優先株のみを上場することも認めるようにするとのことであり、そうするとベンチャー企業が他者からの口出しに悩まされることなく開発費等を市場から集めることも可能になります。また、業績のいい会社が買収防衛や経営の自由度を維持しながら市場から資金を集めることも可能になります。

プロフィール

池田佳史(いけだ・よしふみ)栄光綜合法律事務所、代表社員(弁護士) 1962年生まれ。大阪大学卒業後、1987年司法試験合格。1990年弁護士登録、栄光綜合法律事務所入所。1999年同事務所パートナー就任。1999年ブリティッシュ・コロンビア大学(カナダ)ロースクールマスターコース(LL.M.)卒業。2003年同事務所を法人化し、「弁護士法人栄光」を設立、代表社員に就任。

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