村上ファンド事件の東京高裁判決について
2009年2月3日4日経新聞によれば、村上ファンド事件の東京高裁判決ではインサイダー取引きであることは認めたものの一審の実刑判決を破棄して執行猶予をつけたということです。このニュースは、この日の日経新聞で社説を含めた4箇所で報じられており、社会的な関心の高い事件であることを示しています。
この事件では、村上氏が、ライブドアがニッポン放送株を取得するとの情報を得て、同社株を取得したことがインサイダー取引きとなるかが問題となりました。旧証券取引法(現金融商品取引法)の禁止するインサイダー取引きには2種類の形態があり、その一つは会社関係者の取引であり、もう一つは公開買付け(TOB)等関係者の取引です。村上氏はニッポン放送の関係者でもありませんし、ライブドが市場内での取引に準じる方法でニッポン放送株を取得するということであれば、村上氏はTOB関係者にもあたらないということになります。しかし、政令では総株式の5%以上を集めようとする買い集め行為をTOBに準ずるものとしており、5%以上の株式を集めようとするとの情報を得た後に、その株の取引きをすることはインサイダー取引に該当します(インサイダー取引きに該当することについての詳細はhttp://www.eiko.gr.jp/topics/kaisha060615.htmlを参照してください)。
問題となるのは、村上氏が、買い集め側であるライブドアが5%以上のニッポン放送の株式を集める(これがインサイダー取引規制でいう「重要事実」になります)ことを決定したとの情報の伝達を受けて同社株式を取得したか否かです。
会社の決定というためには、通常は決定機関である取締役会で決議される必要があります。しかし、インサイダー取引規制における決定については会社法に規定された決議機関での決定までは必要ありません。この事件では、実質上の意思決定機関である堀江貴文前社長、宮内元取締役が決定したと認定しており、それで重要事実の決定と言えます。
次に、重要事実の決定というためには単なる願望や絵空事ではない、その実現が可能であることが必要です。しかし、実現可能と言ってもその程度は様々であり、実現の可能性が高い場合にのみ重要事実の決定とするというのか、少しでもあれば重要事実の決定と言えるのか、可能性の程度はどれくらいを要求するのかが問題となります。この件では、村上氏は、実現可能性はなかったとして、重要事実の決定の伝達を受けていないとして争っていました。
一審判決では、可能性がない場合は除かれるが、可能性があればその高低は問題がないという判断をしました。ビジネスにおいては様々な戦略が検討されますが、可能性はあっても実現しないことも多く、一審判決の基準は広すぎるという批判がありました。高裁判決では、投資判断に影響を及ぼす程度の相応の実現可能性が必要であり、ある程度具体的な内容を持ち、実現を真摯に意図していると判断されるものでなければならないとしました。
ただし、高裁判決も、結論としては、重要事実の決定の伝達があったことを認めました。
今回の判決については、上村達男教授は「二審はインサイダー取引を細かく認定したが、逆に事件の構図は矮小化されたのではないか」とのコメントを述べておられるようです。今回の判決では、インサイダー情報を利用してニッポン放送株を買い増したのではなく、インサイダー情報との認識も弱いままに従来の方針に従って買い増してっただけという、いわばうっかりインサイダー的な認定をしており、それが執行猶予をつけた理由の一つのようですが、一審判決での「聞いちゃったのではなく言わせたのだ」との厳しい指摘にもみられる村上ファンドの利益のためにライブドアを利用したという構図が上村教授の念頭にあるのだと思います。また、日経新聞の社説でも、「『インサイダー取引よりも罪の重い、同法の不正行為禁止条項を適用すべき事件だった』。遠回しにそう指摘しているようにも思える」と指摘しています。

池田佳史(いけだ・よしふみ)栄光綜合法律事務所、代表社員(弁護士)
1962年生まれ。大阪大学卒業後、1987年司法試験合格。1990年弁護士登録、栄光綜合法律事務所入所。1999年同事務所パートナー就任。1999年ブリティッシュ・コロンビア大学(カナダ)ロースクールマスターコース(LL.M.)卒業。2003年同事務所を法人化し、「弁護士法人栄光」を設立、代表社員に就任。



