ベンチャーキャピタル運営の難しさ~日米間VCの格差拡大の要因
VCの考慮すべき項目の第二には、ファンドから非居住者または外国法人が受け取る分配金について、原則としてファンドが20%の源泉徴収をした後に分配しなくてはならなくなったことである。
従来は、日本に恒久的施設がなければ源泉徴収の必要はなかったが、平成17年から組合契約事業において、組合員である 非居住者及び外国人法人も、組合契約事業を直接行なっているものと判定するという見解が出された(平17課法8-2、課個2-19、課審4-89追加)。
例えば、日米間では租税条約が締結されており、日本人が米国のVCファンドに投資してキャピタルゲインが上がった時には源泉徴収されることなく分配され、日本において所得税申告することになる。
一方、米国居住者が日本のVCファンドに投資してキャピタルゲインが上がった時には、20%が源泉徴収され、差額が米国に送金されることとなる。もし当該 米国居住者が全く納税する金額がなかった場合に、日本での源泉徴収部分と米国でのキャピタルゲイン課税との差額が米国において本当に還付されるかどうか不安である。
そのため、米国投資家は日本のVCファンドに投資することを避けることにつながろう。現に、米国VCに比べて投資パフォーマンスが良くない日本のVCファンドに対して、米国VCよりもパフォーマンスが良くなければ投資しない、といい始めている投資家も出始めている。前述したように、日本のVCの 投資規模は米国の約1/13という格差が開いているが、今後、更に格差が広がる恐れも出てきている。
第三には、監査法人のVCファンドに対する 会計処理及び監査上の取り扱いが近年、厳しくなったように感じることである。未公開会社の「実質価値」の評価がVCと公認会計士とで大きく乖離することが増えてきた。
すなわち、VCはベンチャー企業、とりわけスタートアップに近い企業の「実質価値」は収益還元法などの将来価値に基づくものとする傾向が強いのに対して、監査人は簿価純資産に基づく解散価値とする傾向が強い。
ポートフォリオ個別企業の「実質価値」の評価はGPとしてのVC(または評価委員会) の専任業務であり、その評価の是非の判断は出資者がすべきものと考える。ただ、最近の傾向は監査人が個別企業の「実質価値」を算定し、評価減の実施を推奨 する傾向が強くなっている。
この傾向が強まれば、VCは評価減の可能性の高いスタートアップのベンチャー企業には投資しなくなり、評価減の可能性の低い株式公開間近のベンチャー企業にのみ投資することが増えることであろう。
このことは、日本のイノベーションの促進に必要なスタートアップ期のベンチャー企業の成長を阻害し、引いては日本のVCの投資パフォーマンスを悪化させ、世界の出資者が日本のVCに投資することを阻害するため、更にスタートアップ段階のベンチャー企業への投資額が増加できない、という悪巡回につながる恐れがある。

長谷川博和(はせがわ・ひろかず) グローバルベンチャーキャピタル代表取締役、マネージング・パートナー
中央大学卒業後、野村総合研究所、ジャフコを経て、グローバルベンチャーキャピタルを設立、代表取締役社長。運営するファンドは、日本最高級の投資パフォーマンスを達成している。著書に「MBA国際マネジメント辞典」「決定版ベンチャーキャピタリストの実務」など多数。公認会計士。早稲田大学大学院アジア太平洋研究科博士課程終了。学術博士(国際経営)。



