ベンチャーキャピタルの規律~集団投資スキーム持分に対する規制
日本のプライベートエクイティのなかでも、特にベンチャーキャピタルが業務を行なうにあたって配慮しなければならない項目が近年、急増している。主なものは以下の3点である。
第 一は、2006年6月成立の金融商品取引法により、「集団投資スキーム持分」が新たに規制の対象となり、登録または届け出をしなければならなくなったことである。
金融商品取引法においては、かかる「集団投資スキーム持分」に該当するものとして、民法上の組合契約、商法上の匿名組合契約、投資事業有限責任組 合契約又は有限責任事業組合契約に基づく権利と、社団法人の社員権その他の権利のうち、当該権利を有する者が出資又は拠出をした金銭を充てて行う事業 (「出資対象事業」)から生ずる収益の配当又は当該出資対象事業に係る財産の分配を受けることができる権利が有価証券とみなされている(金融商品取引法第 2条第2項第5号)。
また、外国の法令に基づく権利であって、これらの権利に類するものも同様に有価証券とみなされる(金融商品取引法第2条第2項第6 号)。そのため、日本で活動しているVCファンドの大半が、この集団投資スキームに該当し、金融商品取引法の適用を受けるものと考えられる。
したがって、VCファンドの業務執行組合員(GP)は原則として内閣総理大臣に登録しなければならず(第29条)、その手続(第29条の2)や登録拒否事由(第29条の4)が定められている。
ファンドのGPには、ファンドの組合員を勧誘すること(販売業者)については第二種金融商品取引業の規制がかかり、組合員が拠出した資金を運用すること(運用業者)については投資運用業の規制がかかることとなる。それぞれの詳細は下記のとおりである。
ア 販売業者規制
第二種金融商品取引業(第28条2項1・2号):ファンドの持分の募集又は私募を行うこと(第2条8項7号)、募集若しくは売出しの取扱い又は私募の取扱い(第2条8項9号)などが規制される。
また、登録拒否事由(第29条の4第1項)として、一定の行政処分又は刑罰を受けたこと等に関する事由(1号~3号)や、資本金が政令で定める金額未満の者(4号)、営業保証金(第31条の2)(個人の場合は、政令で定める額の供託が必要)などが定められている。
イ 運用業者規制
投資運用業(第28条4項3号)としては、ファンドの持分を有する者から出資又は拠出を受けた金銭その他の財産の運用を行うこと(第2条8項15号ハ)が規定されている。
このような多くの登録及び業規制を遵守することが出来るVCは、資金面、人材などの体制面からしても、大手VCに限られることであろうし、現実的には中小規 模のVCは法令順守のコストが過大となり構造的に成立しえなくなる。
したがって、資金面、人材などの体制面の制約に加え、投資活動の国際化の流れのなか で、柔軟な投資活動を実行するためにも、大半のVCが、原則としての「登録及び業規制」を適用するのではなく、「適格機関投資家等特例業務」の適用(第 63条から63条の4)を受けて業務を行なうことになると思われる。
法令では中小VCの活動にも理解を示す中で、「適格機関投資家等特例業務」を設けてい るが、政令で詳細を決める場合にも中小VCの活動にも配慮されることを期待したい。
そもそも米国では現時点でもVCが登録または届出しなくては ならない規定は存在しない。英国は原則としてFinancial Services and Market Act 2000 Regulated Activities Amendment No.2のOrder2005(2005 No,1518)に基づき、原則としてVCファンドは届出をしなければならない。
しかし、この厳密な法律遵守がベンチャー企業に対するエンジェル投資家及び ファンドの過度な費用負担をもたらし、英国の成長に不可欠なベンチャー企業の成長促進の障壁となるかもしれないことを考慮して、一定の条件のもとに、届出 をすることなしにファンドを運用することを認めている。
一部の問題事例や広くアマチュアから出資を受け入れるファンドを規制するために、全てのVCファンドを規制の対象として、登録又は届出をさせ、疑義が生じ た場合にはいつでも立ち入り検査が可能であるという、欧米以上に厳しい規制を日本が適用することは、日本のベンチャーキャピタル業界の発展を阻害すること にもなりかねない。
2004年では、米国の投資残高27兆円、欧州で 21兆円であるの対し、日本の残高が8,594億円であり、大きな較差がある。2004年の年間投資額は米国が181億ドル(2004年平均1ドル107 円で換算して2.2兆円)であるのに対して日本は1500億円であり、日本は米国の約1/13の水準である。
日本が米国の約1/6の規模であった1995 年から見ると、格差が1/50にまで急拡大した2000年は正に米国のベンチャーキャピタルバブルであったが、2004年には日米の格差は約1/13にま で縮小している。日米はGNP比では1/1.8、人口比で1/2.1であることを考慮しても、日本のベンチャーキャピタルの規模が限定的であることがわか る。
この格差の理由には、急成長するベンチャー企業が日本では未だに少ないこともあるが、ベンチャーキャピタルを含めたエクイティ・カルチャーが日本に普及し ていないことも影響している。リスクマネーは国境を越え、最もリターンが上がり、最も規制の少ない国に流れる傾向にある。なぜなら、VCファンドの組成地 域と、投資するベンチャー企業の本店所在地は同一でなくても良いからである。

長谷川博和(はせがわ・ひろかず) グローバルベンチャーキャピタル代表取締役、マネージング・パートナー
中央大学卒業後、野村総合研究所、ジャフコを経て、グローバルベンチャーキャピタルを設立、代表取締役社長。運営するファンドは、日本最高級の投資パフォーマンスを達成している。著書に「MBA国際マネジメント辞典」「決定版ベンチャーキャピタリストの実務」など多数。公認会計士。早稲田大学大学院アジア太平洋研究科博士課程終了。学術博士(国際経営)。



